こんにちは。管理人の河内です。
前回までフェルメールの生涯や作品についてご紹介してきましたが、改めてフェルメール作品の魅力とは一体何なのでしょうか?
その一端をこの記事では解説してみたいと思います。
目次
フェルメールの魅力とは?
フェルメールの魅力といえば、当時の人々の何気ない日常を描いているだけなのに、永遠に時間が止まったような静謐な印象、考え抜かれた精緻な構図や柔らかく温かさを感じる光の表現など、いくつも挙げることが出来ます。
それらはもちろんフェルメールの卓越した技術によるものですが、特にフェルメールの絵画は「写真のような」感じがするとよく言われます。
さらに「輝く青色」、「光の表現」の三つが特にフェルメール作品のきわめてオリジナルな魅力といえます。
今回はこの3つに着目して詳しくご紹介していきます。
フェルメールの技法① カメラ・オブスクラ
では初めに、なぜフェルメールの絵が“写真のような”印象を受けるのでしょうか?
その答えは、フェルメールは制作に「カメラ・オブスクラ」を使ったからだと言われています。
ではこの聞きなれない「カメラ・オブスクラ」とはいったい何なのでしょうか?
「カメラ・オブスクラ」とは、「暗い部屋」という意味で、ピンホール現象を使った原始的なカメラのことです。
そしてこのピンホール現象とは、光を遮断した部屋や大きな箱を用意し、ある一面に小さな穴(ピンホール)を開けます。するとその穴を通った光(=外の景色)が、反対面の内壁に上下反対に映るという現象です。
現実世界がそのまま投影されるので、その像をなぞれば写真と同じく正確にものを写し取ることが出来るのです。
フェルメールの制作工程ははっきりと分かっていませんが、フェルメールはデッサンが一切残されていないことから、これを使って直接キャンバスに描いた(転写した)ものと推測されます。
この現象は古くから知られていて、古代ギリシャでアリストテレスがピンホール現象について記しており、1000年以上前にカメラ・オブスクラがイスラム世界で発明されました。
この原始的な写真の原理を生かした装置は、フェルメール以外にも当時から多くの画家たちに使われていたようです。
ではなぜフェルメールだけが「写真のような」効果を持っているのでしょう?
ここからはわたし管理人(画家の端くれ)の推察ですが、他の画家は、形は写し取るけれども陰影を使った肉付けや、質感表現には伝統的な絵画技術を持って表現したのに対し、フェルメールは陰影も光、ひたすら視覚的、映像的効果(見えたまま)として忠実に再現しようとしたのではないでしょうか?
画家は、どんなに写実的表現をする画家であっても、視覚を通して見えたままを写し取っている訳ではありません。
なぜなら人は目で物を見ますが、それが何であるかを理解しようとするとき視覚以外の様々な感覚器官や記憶をもとに理解します。
画家は鑑賞者に理解をさせるために、視覚情報のほかに温度や湿度、手触り感といったものまで表現しようとします。
そのためには美術表現として学んだ陰影の効果や、空間表現、人体であれば解剖学的知識などを総動員して「表現」されているのです。
ですからどんなに絵がリアルに見えていても、そこにはそうした裏打ちがなされているので、いざ写真や実物と絵を突き合わせてみると、全く違うものになっているはずです。(それが写真技術が発達した現代でも写実絵画がなくならない理由の一つだと思いますが)
フェルメールの「写真のような」効果は、こうしたことを度外視して純粋に映像的な忠実さを求めた結果だと考えられますが、裏を返せば写真のなかった時代、こうした表現は画期的だったと言わざるを得ません。写真というものを見慣れた現代の私たちとは全く違った印象を、当時の人は持ったことでしょう。
フェルメールの技法② 光の粒・ポワンティエ(点綴法)
次に光の表現について解説します。
この‟ポワンティエ“とは、光の反射やハイライト部分などを点描によって表現する手法のことを言います。
これは上記のカメラオブスクラの効果として産まれた、フェルメール作品には欠かせない「光の粒」です。
ハイライトのところに「光の粒」を描くことで、光の反射が強調され、宝石や金属のものはもちろん布までもがキラキラと輝いた印象を与えています。
フェルメールの柔らかな光と影のグラデーションに、アクセントとしてこの光の粒が入ることで画中の世界は独特の光で満たされるのです。
これはもちろん実際に見えるものではなく、写真と同じ原理のカメラオブスクラを通して見える映像が、わずかにピンぼけの状態であるため光の反射が強くみられ、それを絵に取り入れたと考えられています。
フェルメールの技法③ フェルメール・ブルー
最後にフェルメールの透き通った輝く青について。
「青いターバンの少女」に代表されるようなフェルメール作品の特徴的な鮮やかな青色は、フェルメールブルーと呼ばれます。
このブルーは明るい黄色とセットで用いられることが多く、見る人を魅了してやみません。この黄色と青の鮮やかなコントラストの効果は、後世ゴッホや「色彩の魔術師」といわれるマチスにも受け継がれています。
このブルーはウルトラマリンブルーという色で、ラピス・ラズリという鉱物を砕いて作られています。
もともと天然には、青のもととなる顔料の種類は極めて少なく、鉱物からとれるアズライトや植物原料のインディゴなどがありますが、この気品と透明感はウルトラマリンブルーならではのものです。
現代の私たちは、化学合成したウルトラマリンブルーを安価に手に入れることが出来ますが、19世紀にこの化学色が生まれるまで、この天然鉱石を使用していました。
このラピスラズリは、ヨーロッパでは産出せず、フェルメールの時代にはアフガニスタンで採掘されたものを輸入していました。
しかもラピスラズリはごくわずかしか採掘されなかったために大変高価で、当時は金より高かったようです。
ラピスラズリとはラテン語の「ラピス(石)」ペルシャ語の「ラズリ(空)」の合成語で「まさに“天空の色”を意味しています。
ちなみにこのウルトラ・マリンブルーをその音の響きから、私は長い間「超・鮮やかな青」の意味だと誤解しておりましたが、実は原産地から「海を越えて(ヨーロッパに)もたらされた青」というのがその本来の意味だそうです。高価なのも納得ですね。
フェルメールの技法 まとめ
いかがでしたか?
世界中で愛される「謎の画家」フェルメール、その技法の秘密のいくつかをご紹介しましたが、これを知って改めて作品を眺めると、きっと違う見方が出来ると思います。
平成30年には大規模な「フェルメール展」が東京と大阪で開催されるそうです。なにせ現存する作品がたったの35点しかない内の8点が揃うという大変貴重な機会です。長蛇の列になることは必至ですが、ぜひ足を運んでみて下さいね。
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