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【美の反逆者】ギュスターヴ・クールベの作品を解説します!

こんにちは。管理人の河内です。

今回はギュスターヴ・クールベの代表作をご紹介しながら解説してみたいと思います。

写実主義の画家として知られるクールベは、『天使は見たことがないから描けない』という有名なセリフを残したように、現実のあるがままを画面に写し取ろうとした画家です。

その作品は肖像画、風景画、裸婦画などが多く、特に郷里の自然やそこで暮らす親しい人々を主題とした作品が多いのが特徴です。

またクールベは生涯反権力の姿勢を貫き、作品の主題が厳しい生活を強いられる農民や労働者たちだったことから社会主義的傾向が見て取れます。

目次

クールベの代表作①『黒い犬を連れたクールベ』

クールベ自画像

1842年 46×55㎝ パリ プティ・パレ美術館蔵

故郷のジュラ山中、オルナンの町に近いボンスヴォ―の峡谷プレジール= フォンテーヌ洞窟の入り口でお気に入りのスバニエル犬と一緒にポーズをとる23歳の若きクールベの自画像です。

バラ色の絹の裏地を付けた優雅な袖なしマント、格子柄のズボンに鍔広の帽子。しばしばクールベについて語られるような田舎者ではなくダンディーないで立ちです。
1844年のサロン初入選したのがこの作品でした。

 

クールベの代表作②『ハンモック』

ハンモック

1844年 70×97㎝ ヴィンテルトゥール オスカーラインハルトコレクション
森の木陰に掛けられたハンモックで昼寝をする少女。

幸せそうに眠るその表情や無防備に寛いだポーズ、葉を編んだ髪飾り、そして実際は薄暗いはずの木陰でハンモックと女性だけが明るく鮮やかに浮かび上がる様に描かれいるところは写実主義というよりはロマン主義的あるいは象徴主義的な印象を受けます。

ハンモックを取り巻く周囲の草花や木の幹、地面の岩までも伝統的な手法によって丹念に描かれています。

最初は『乙女の夢』と題されていたこの作品は1845年のサロンでは落選しました。

クールベの代表作③『オルナンの埋葬』

オルナンの埋葬

1849年 315×680㎝ オルセー美術館蔵

クールベの代名詞的な作品です。

縦3メートル横が7メートル近くに及ぶ大画面作品。

オルナンとはフランスのスイス国境に近いフランシュ=コンテ地方にある村でクールベの故郷です。
パリのサロンで好評を得たまだ30歳のクールベは、新進気鋭の画家として故郷に凱旋し、村人たちをモデルにこの絵を描きました。50人近い村人たちも喜んでポーズをとり、顔もそっくりに描かれました。
しかしそれがあだとなりました。
クールベはこの絵を“歴史画”として発表したのですが、当時歴史画というのは英雄の冒険譚や王侯貴族の偉業をたたえるものであり描かれるのは身分の高い者と決まっていたのです。しかしここに罹れたのは等身大の村人たち。クールベは彼らを一切美化することなくありのままに描いたのです。
そのためパリの画壇では「なんと酷い絵だ!」と酷評されました。するとそれまでクールベに好意的だった村人たちも恥をかいたということで大いに怒りクールベは故郷に帰れなくなったのです。

 

クールベの代表作④『水浴びをする女』

1853年
このあまりに肉々しい裸体画はサロンで問題視されました。
「ワニでもこんな醜い女じゃ食べる気もおこるまい」とさえ言いだす人までいたそうです。
さらにこの絵を見たナポレオン三世はこの絵を鞭で叩いたそうです。それだけ当時の常識ではこの絵は俗悪で不潔、醜いものと映ったのです。
この女性は太っているだけでなく、当時の中産階級の女性でありながら不釣り合いな古典的な身振りをしていて、平凡な顔つきの女中が似たようなポーズで応えています。
このようにおよそ理想的な人物像をかけ離れた女に古典主義絵画のようなポーズをあえて取らせることでクールベはリアリズムを強調し、かつ現代生活を『歴史画』のレベルにまで引き上げようとしたと考えられます。

 

クールベの代表作⑤『眠り込んだ糸紡ぎ女』

眠り込んだ糸紡ぎをする女

1853年 91×115㎝ モンペリエ ファーブル美術館蔵

モデルの女性はクールベの妹ゼリー・クールベです。
クールベはこうして妹たちをモデルにいくつか作品を描きました。
クールベは日常のありふれた仕事に勤しむ人々をありのままに描きましたが、今作では実際に仕事をしている場面ではなくその疲れから眠り込んだ情景を描いています。
糸巻車の後ろに飾られた花は萎れ、彼女の疲れの比喩となっています。
技術的に見ると、糸車や紡錐の円に頭部の円、なだらかなショールの円などが呼応し、花や衣服、椅子の柄にあしらわれた花の赤が画面にリズムを与え、暗い雰囲気に沈み込み過ぎずこの絵と少女にほのかな明るさと可愛らしさを添えています。
クールベはこの絵を1853年のサロンに『水浴びする女たち』と共に出品しましたがこの絵もまた「この田舎女の皮膚に垢の溜まっていることといったらいくら洗っても落ちないほどだ」などと罵声を浴びせられました。
現代の私たちから見ると、仕事に疲れ寝入った女性の落ち着いた雰囲気のある作品と映りますが、当時の美の基準からは受け入れ難かったのですね。

 

クールベの代表作⑥『出会い(こんにちは、クールベさん)』

出会い~こんにちは、クールベさん

1854年 129×149㎝ モンペリエ ファーブル美術館蔵
1854年5月クールベはパトロンのアルフレッド・ブリュイヤスをモンペリエの自宅に訪ねました。この絵は街はずれに着いたクールベと、出迎えるブリュイヤスの出会いの瞬間が描かれています。
画材道具を背負ったクールベは頭をのけぞらすようにして自分をパトロンと対等あるいは上の人間と見ているのに対し、ブリュイヤスの横にいる彼の召使いはで首を垂れるポーズをしていて服従とへりくだりを表しています。

 

 

クールベの代表作⑦『画家のアトリエ』

画家のアトリエ

1854-55年 361×598㎝ オルセー美術館蔵
正式には『画家のアトリエ:私の芸術生活の7年にわたる一側面を規定する現実的寓意画』という長い名前がついています。
そこからこの絵が1848年から55年、つまり二月革命から万国博覧会の年までの仕事の総決算であることが分かります。
中央に画面に向かって筆を振るうクールベ本人とそれを眺めるモデルに光が当てられ左右に沢山の人が配されています。
クールベは友人シャンフリールへの手紙で『左側の人物は「死の上に生活」し、右側の人物は「生の上に生活」するものだ』と述べています。
シャンフリールは右側のグループにいて、そのほかブルードンやボードレールらの友人が含まれます。右側もクールベの仲間であるが、しばらく人物は特定できていませんでしたが近年解明されています。
それによると密猟者の格好をしたナポレオン3世や元共和主義者の変節漢たち、ナポレオン3世がおそらく単に自分の足場を固めるために支援していた、ヨーロッパ各国の自由主義運動の闘士たちが含まれているそうです。

 

クールベの代表作⑧『麦をふるう女』

麦をふるう女

1855年 131×167㎝ ナント美術館蔵
クールベの作品にとって、辺鄙な片田舎である郷里で見知った人々の生活や労働は、大きな制作のヒントになっています。
この作品もそうした女性が働く情景を描いたものです。少女が地面に膝をつき、背中をそらせて一心に穀物をふるっている躍動感がポーズと白い肌、地面に敷かれた白い布地と彼女の衣服の赤のコントラストが目を引きます。
実際はこの作業でこうしたポーズは取らないらしく、クールベはより動きやインパクトを与えるために取らせたと考えられます。
横ではもう一人、穀物の袋に持たれたかかって指先で選別する女性が描かれ静と動の動きが対照的です。働く女性の動作そのものに焦点があてられた作品で『眠り込んだ糸紡ぎ女』とは対照的です。
ちなみに麦をふるう少女は妹のゾエ・クールベ、もう一人は一番下の妹ジュリエットで、少年は当時6歳くらいの息子デジレ・クールベがモデルになっています。

 

クールベの代表作⑨『ブルードンと子どもたち』

プルードンと子どもたち

1865年 14.7×19.8㎝ プティ・パレ美術館蔵
ピエール・ジョセフ・プルードンは政治哲学者。彼の無政府主義的社会主義者の思想でクールベや哲学者ボードレールらもその思想に影響を受けましたが、プルードンの方はクールベの芸術には無理解だったようです。クールベとブルードンはともにフランシュ=コンテ地方の出身でした。

本作は1865年1月にブルードンが亡くなった後、写真や他の画家が描いた肖像画をもとにクールベが描いた作品です。
階段に腰かけ頬杖えをつくプルードン、手前には書物が数冊、奥には二人の可愛い少女が本を読んだり砂いじりをして遊んでいます。
本来モデルを目の前にして描いていたクールベにとってはかなり骨の折れる仕事だったようです。
この作品もまたサロンに出品した際「醜く」「拙劣」であると不評を買いましたが、現在ではクールベの代表作に数えられています。

 

クールベの代表作⑩『眠り』

1866年  135×200cm パリ プティ・パレ美術館蔵

二人の全裸の女性が絡み合うようにしてベッドで寝行っています。

部屋の家具や調度品から彼女たちが娼婦であることが推測されます。

特に19世紀後半のパリでは娼婦の数が増え、その多くは厳しい生活のためにあえて選ばざるをえなかった仕事でした。そのため彼女たちのお互いの辛い境遇を共有し労りあい慰め合うということから同性愛が生れることは珍しいことではありませんでした。

19世紀中ごろのパリにあっては女性同士の同性愛は、バルザックの《金色の目の娘》やゴーティエの《モーパン嬢》、ボードレールの詩などといった文学の題材にも良く取り上げられていたようです。

この『眠り』は『ヴェニュスとプシュケー』の評判を聞いた元オスマン・トルコ帝国の大使で美術愛好家のカリル・ベイの依頼によって製作され『怠惰と淫蕩』という別名があります。
大胆に絡み合った肉感的な二人の女性がベッドの上で眠っています。官能的な情景ですが二人の屈託のない表情からは退廃的なムードは感じられずむしろ充足した穏やかさを感じさせます。
モデルの一人は画家ホイッスラーの恋人です。

 

 

クールベの代表作⑪『嵐の後のエトルタの断崖』

嵐の後のエトルタの断崖

1869年 133×162㎝ オルセー美術館蔵
フランス北西部ノルマンディー地方の河岸エトルタの砂浜から見える岸壁を描いた作品です。まだ白波が立つ海に突き出た変化に富んだ形体、ごつごつした質感砂浜に引き上げられた小舟などクールベでなくても非常に絵になる光景ですね。モネも同じ景色を描いています。クールベはペインティングナイフというコテのような道具を初めて使った画家とも言われ、絵具を厚く盛り上げたり重ねたりすることが良くあり、まさにこの岸壁の重量感や長年風雨にさらされた時間を感じさせる質感などを表現するのにはぴったりの描法でした。

 

 

クールベの代表作⑫『波』

波

1870年 72.5×92.5㎝ 上野 国立西洋美術館蔵
フランスの奥深い山岳地方に生まれ育ったクールベにとって、海は未知の世界であり想像力を刺激したのでしょう。1869年夏にクールベはノルマンディー地方エトルタに滞在し、こうした荒れ狂う波の海景を数多く描きました。

画面上半分は、赤紫から青へと続くグラデーションでどんよりと曇り、その下半分に大きく黒ずんだ波が立ち上がり、白い波頭と水しぶきをあげて迫ってきます。
クールベ特有のペインティングナイフを使って厚く塗られた真っ白い泡立ちやしぶきが効果的に迫力と臨場感を与え、まるで波の音や風の音まで聞こえてくるようです。

 

クールベの代表作⑬『波の中の女』(部分)

波の中の女

1686年 65×54㎝ メトロポリタン美術館蔵
クールベは1864年から68年にかけて女性のヌードの連作を描いています。
1863年のサロンでアレクサンドル・カヴァネルの『ヴィーナスの誕生』を見たことに触発されたと言われています。
ヴィーナスとはご存知の通り愛と美の女神ですが、海の泡から生まれたことはあまり知られていないかもしれません。最も有名なボッティチェリのヴィーナスもしかりで海で生まれたヴィーナスが貝に乗って登場するシーンです。
そう考えるとこの作品もヴィーナスと言えないことはないのですが、決定的に違うのはクールベが脇の下に毛を描いたことです。
これによってこの女性は生きたなまの人間でるということを物語っているのです。

 

【クールベに関するその他のお勧め記事】

『19世紀美術の革命家』ギュスターヴ・クールベの作風と生涯をご紹介します。

・『写実主義の巨匠』ギュスターヴ・クールベの生涯を詳しく解説します!

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