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【麗しき女神たち】ボッティチェリの代表作を詳しく解説します!

こんにちは管理人の河内です。

今回は初期ルネサンスの巨匠ボッティチェリの代表作を詳しく解説したいと思います。

《美しく優雅で繊細、だけどどこか物悲しい憂いをひめた女性》それがボッティチェリの描く女性たちです。

そして彼女たちの多くには、ボッティチェリの理想の女性シモネッタ・ヴェスプッチの面影が潜んでいるいると言われています。

シモネッタとは、豪華王の弟ジュリア―ノ・ディ・メディチの恋人といわれ、当時の人々から「美しきシモネッタ」と呼ばれた美女のこと。

残念なことに彼女は22歳の若さで亡くなってしまいました。

500年の時を越えてもなお輝き続けるボッティチェリの至高の作品をお楽しみください。

 

目次

ボッティチェリの代表作① 「東方三博士の礼拝」

1475年頃  111×134㎝ ロンドンナショナルギャラリー蔵

十五世紀に非常に人気のあったこの主題を、ボッティチェリは1470年代を中心に5点ほど描いています。(そのうち一つは消失)今作はそのうち最もよく知られる作品です。

ベツレヘムで誕生した救世主イエスを礼拝するために星に導かれてやってきた東方の3人の博士(マギ)が家畜小屋で聖母子に黄金、乳香、没薬を捧げたという聖書(マタイ伝)のお話にあるこの主題は、華麗な宮廷風俗絵巻を描き込むのに好都合な祝祭性と世俗性をそなえたテーマとして好まれました。

中央奥の高い位置に聖母子が配され、前景に礼拝者たちがシンメトリカル(左右対称的)に配されています。

三人の博士や参拝者たちが身に着けている華麗な宮廷風の衣装は、聖書の時代のものではなく、ボッティチェリが生きた時代のものであり、そこからはロレンツォが支配するフィレンツェ文化の洗練された風俗と、知的雰囲気が生き生きと伝わってきます。

ここには当時フィレンツェを支配したメディチ家の人々と、絵の注文主でメディチ家と親しかった銀行家組合の有力者ラーマ(右奥でこちらを見ている白髪の老人)など集団肖像画になっています。

中央で聖母子に跪いているのが『祖国の父』と言われたコジモ・デ・メディチ。

画面左は地で赤い服で手を前に組んでいるのがロレンツォ・イル・マニフィコ、右端でこちらを見ているのがボッティチェリ本人の自画像です。

このようなそれまで不可侵であった聖なる世界に俗世の人間が入り込み、聖母子と直接対面する場面が描かれるようになったのは、いかにメディチ家が事実上の「王」であったかが伺えます。

 

ボッティチェリの代表作② 「春(プリマヴェーラ)」

1477-78年 315×205㎝ ウフィツィ美術館蔵

『ヴィーナスの誕生』の誕生と並んでボッティチェッリの最も有名な作品です。

豊穣と幸福がこの絵の隠されたテーマであり、ロレンツォ・ディ・ピエルフランチェスコ・デ・メディチとセミラミーデ・アッピア―二の婚礼記念として描かれた可能性が高いとされています。

この絵は左から右に向かって時間が移り変わっていきます。(向かって右から左)

左端では西風の神ゼフュロスがニンフのクロリスを捕まえ、彼女の口からは花が次々と零れ落ちています。

その隣に時間は移り、クロリスは花の女神フローラへと変身しています。

フローラは花を振り撒き、彼女の足元では花が咲き誇り春が訪れているのです。

これら克明に描かれた植物はほとんどが種の特定ができるほど正確に描かれているそうです。

そして中央にはドレスを着たヴィーナス。

彼女は4月の女神でもあり、その隣で軽やかに輪舞を踊る三美神の左には5月の神マーキュリーが杖で雲を追い払っています。

この作品は「ヴィーナスの王国」とも呼ばれています。

 

 

ボッティチェリの代表作③ 「書斎の聖アウグスティヌス」

1480年 185×123㎝ フィレンツェ オニサンティ聖堂蔵

この作品は、オニサンティ聖堂のギルランダイオの『書斎の聖ヒエロニムス』と対になるかたちで描かれています。

日没前の瞑想中に、聖アウグスティヌスに突如神秘的な声が聞こえ自分はヒエロニムスだと名乗ります。

その時まさに聖ヒエロニムスが亡くなっていました。

背景の時計はちょうど日没の時刻を指しています。

そのほか狭い書斎には所狭しと天球儀や写本類、ピタゴラスの定義を図解した幾何学書などが細かく描かれいて当時の学者の書斎の光景をみせています。

 

ボッティチェリの代表作④ 「書物の聖母」

1483年58×39.5㎝ ミラノ ポルディ¬=ペッツォーリ美術館蔵

かつての師匠リッピから受け継いだ繊細な線描にして優雅、きらめくような色彩などがいかんなく発揮されたとても美しい作品です。

窓辺に腰かけた聖母が膝に幼子イエスを抱き、本を読み聞かせているようです。

イエスは愛らしい表情で母マリアを見上げ、右手では祝福のポーズを取り左手と腕に受難の象徴である三本の釘と茨の冠を持っています。

聖母の視線はこれら受難具に落ち、幼い我が子の運命を予感しているためかその表情は憂いと悲哀を帯びています。

開かれた祈祷書や果物鉢(さくらんぼは『天国の果実』の象徴)の克明な描写などこの作品にもフランドルの影響が見て取れます。

 

 

ボッティチェリの代表作⑤ 「マニフィカトの聖母」

1483年 直径143.5㎝ ウフィツィ美術館蔵

ボッティチェッリの聖母子画の中で最も明るく華やいだ作品です。

色彩は鮮やかで、祝祭的な雰囲気に溢れていて、彼の芸術的円熟の一頂点を成す作品と言えます。

聖母マリアは受難の象徴である柘榴を左手に、幼児イエスを膝に乗せて天使が差し出す本にペンで何かを書いています。

そこには「我が魂 神を讃えまつる…(=マニフィカト・アニマ・メア・デウム)」と書かれていることから『マニフィカトの聖母』と呼ばれるようになりました。

それを後ろから天使が一人覗き込み両端では2人の天使が聖母に『天の女王』の冠を掲げています。

そしてマリアの纏う衣装はまさに女王のように華麗で煌びやかです。

円形という難しい構図の中でボッティチェリは見事に群像を配置し調和のとれた構図に仕上げています。

 

ボッティチェリの代表作⑥ 「青年の肖像」

1480年代初め 41.2×31.8㎝ ワシントン ナショナルギャラリー蔵

赤い帽子を被った栗色の巻き毛の青年が、首を傾げ何やらもの言いたげな表情でこちらを見ています。

こうした肖像画でも『ヴィーナスの誕生』のヴィーナスと同じくボッティチェッリ特有の虚ろな眼差しをしています。

今作が描かれたルネサンス初期の頃は、イタリアでは横顔で描かれることの多かった肖像画ですが、北方フランドル美術(現在のオランダ、ベルギー)の影響で、斜めの角度から描くことで自然な雰囲気を出すように変わってきました。

何気なくそっと胸におかれた手は、やはりボッティチェッリの得意な滑らかな線描でしなやかに描かれています。

レオナルド・ダ・ヴィンチに見られるように、こうしたモデルのポーズや手が重要視され、表情を持たせることで人物の内面を表現しようとし始めたのもたこの時代からでした。

 

ボッティチェリの代表作⑦ 「ヴィーナスとマルス」

1483~84年ごろ 69×173.5㎝ ロンドンナショナルギャラリー蔵

この作品が極端に横長な画面に描かれているのは、婚礼用のカッソーネ(花嫁が持参する衣装箱)の側面用の装飾として描かれたためです。

背景には「結婚」を象徴するミルテの森が広がり、安心しきって眠る軍神マルスとそれを優しいまなざしで見つめる愛の女神ヴィーナス、二人の周りで遊ぶ子どもたちは幸せな夫婦生活を予見しているようです。

しかしこの絵にはもう一つ隠されたテーマがあります。

それは「愛」の象徴ヴィーナスの魔法によって「軍=武器、武力」を象徴するマルスが眠りに落ちており、肉体的欲望を象徴するサテュロスたちが子供の姿として描かれマルスの鎧や武器で遊んでいるのです。

ここから「愛は暴力に勝る」というアレゴリー(寓意)が見て取られるのです。

そこには当時流行した《愛の哲学》とも言われたネオ・プラトニズムが背景にあります。

 

ボッティチェリの代表作⑧ 「パラスとケンタウロス」

1484年ごろ 207×148㎝ ウフィツィ美術館蔵

『春』『ヴィーナスの誕生』とともにロレンツォ・ディ・ピエルフランチェスコ・デ・メディチのために描かれた神話を主題にした寓意画の大作です。

大きな斧槍を持った知恵と理性の女神パラスが、矢筒を背負い弓を持つ半人半馬のケンタウロスの髪を掴んでいます。

優雅に見下ろすアテナに対し、身をよじって怯えるケンタウロス。

パラスは勝利と平和の象徴であるオリーヴの枝を体に巻き付けており、暴力や獣性、肉欲のシンボルであるケンタウロスを支配しているのです。

これもまた「理性による獣性の統御」というネオ・プラトニズム的な道徳的寓意を表しています。

さらにパラスは戦いの女神であり彼女の衣にはロレンツォ・イル・マニフィコの個人的紋章であるダイヤモンドの輪模様が描かれていることからメディチ家の政治的支配とそれによるフィレンツェの平和を表しているという説も考えられています。

 

 

ボッティチェリの代表作⑨ 「ヴィーナスの誕生」

1485年ごろ 172×278㎝ ウフィツィ美術館蔵

海の泡から生まれた愛と美の女神ヴィーナスが、大きな貝に乗って陸に上がる場面を描いたボッティチェリの最もよく知られた作品です。

『春』とともにカステッロのメディチ家の別荘に飾られていました。

両作品には共通点が多く画面左側には西風の神ゼヒュロスがニンフのクロリスを抱きかかえて女神に風とバラの花を贈っています。

二人は愛の象徴として描き込まれています。

ルネサンス以前のキリスト教が厳格な時代ではギリシャ神話は異教であり、裸体は不道徳でした。

そう言った意味ではこの作品は古代ギリシャ文化の『復興』を高らかに告げる作品だといえます。

ヴィーナスは海風に紙を靡かせ倦怠に満ちた表情で胸と局部をそっと隠しています。

片足に重心をかけ体をS字にくねらせたこのヴィーナスのポーズは、プラクシテレスの『クニドスのアフロディーテ』など古代ギリシャの大理石像によくみられるポーズです。

これにより女性の恥じらいと曲線美による肢体の美しさを強調しているのです。

 

ボッティチェリの代表作⑩ 「受胎告知」

1489~90年 150×156㎝ ウフィツィ美術館蔵

フィレンツェの両替商で町の有力者であったベネデット・ディ・セル・フランチェスコ・グアルディの委嘱で制作された祭壇画です。

神の言葉を告げに大天使ガブリエルが読書中のマリアの前に突如現れ、精霊によるキリストの受胎を告げるこの場面は15世紀でも最も人気の高い画題の一つでした。

簡潔な構成の中に、マリアのあまりの衝撃にのけぞるように湾曲したポーズと表情や手の所作から、驚きと当惑、怖れ、恥じらい、拒絶と従順などの揺れ動く複雑なマリアの心理が織り込まれています。ま

た白ユリを持ってお告げをする天使ガブリエルも祝福より不安や戸惑い、いたわりを含んだ複雑な心理がにじみ出ています。

 

ボッティチェリの代表作⑪ 「柘榴の聖母」

1487年 直径143,5㎝  ウフィツィ美術館蔵

ボッティチェリ成熟期の名作です。

柘榴は幼子イエスにいずれ訪れる受難の象徴であり、それを悟っているかのように聖母子の美しさの中に言いしれない不安やメランコリーが漂っています。

聖母子を取り囲む天使たちもみなどこか虚ろでそれぞれが孤独感を湛えたような表情をしています。

聖母子を取り囲む6人の美少年天使たちはマリアの象徴である白いユリ(純潔を意味する)や赤い薔薇(愛)の花を持ち聖母賛歌を歌っています。

左端のユリを肩にかけた天使の襷には、「貴女に挨拶します、恩寵に満ちたお方」と金字で書かれています。

フィレンツェ政庁の注文によって描かれました。

 

 

【ボッティチェリに関するこの他のお勧め記事】

・《優美なる初期ルネサンスの巨匠》ボッティチェリをご紹介します。

・《初期ルネサンスの花形画家》ボッティチェリの生涯を詳しく解説します

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