こんにちは。管理人の河内です。
今回は「シュルレアリスムの奇才」サルバドール・ダリの技法と画風、その変遷について解説してみたいと思います。
ダリの作品は、写実的な描写でありながら、何とも言えない奇怪な世界を表現していますので、少々とっつき難い印象があるかも知れません。
単純に、奇妙で不思議な世界であることは一目瞭然なのですが「なんだか謎めいていて何が言いたいのか良くわからん」という人も多いと思います。今回はそんな印象を持たれている方にも、ダリの画風と背景を辿りながら作品の背景を知ることで、少しでもダリの世界に近づいて頂ければと思います。
少し難しい用語もありますが、是非ご一読ください。
サルバドール・ダリは、人の心の奥深いところにある普遍的な欲望や本能を取り出して、予言的な意味を与えたり、夢のはたらき(=個人的な次元を超えた集合的無意識の世界)を使って人類に共通する原型的、神話的世界を表現しました。
こう書いてくるとちょっと難しい感じがしますが、これがいわゆる「シュルレアリズム」です。
シュルとはフランス語で「上に」とか「超えた、超」という意味で、レアリズムは「現実主義」ですから「現実を越えた現実世界」という意味合いになります。
簡単に言うと、夢とか無意識といったいわゆる普通の世界の裏側だったり、外側の世界をイメージして描いたという感じです。
そこは、人が普段は理性とか常識で縛られて見えなかったり、あり得ないことが見えたり起こったりしている非合理な世界というわけです。
ダリはこうした世界を表現するために使った自らの表現法を「偏執狂的批判的方法」と呼びました。
見えない世界を見せるわけですから普通に描いたのでは表現できません。
そこで考え出されたのがこの手法で、具体的には複数のイメージを重ねてみたり、一方から見ると○○に見えるが別の方から見ると××に見えるといったダブルイメージを使っています。
また有名な「柔らかい時計」などでは、固い金属でできているはずの懐中時計が、柔らかいチーズのようにぐにゃりとした質感で描かれていて、私たちの常識を打ち壊してくれます。
こうした手法によって、ダリの描く世界は鑑賞者に不思議な感覚を味合わせてくれます。
その後ダリは、精神や無意識といった内面世界を探ろうとしたシュルレアリスムの考えから離れて科学や数学に関心を持ち始め、同時に「科学」と「宗教」という一見相反する世界の融合を試みようとしました。
「記憶の固執の崩壊」(↓)は、科学を作品に取り入れた初期の作品。それらは幾何学的な形体や強調された遠近法として現れます。
ダリが科学に興味を持つようになるきっかけとなったのが、原子物理学の誕生でした。
第2次世界大戦下の日本への原子爆弾の投下は、ダリにも大きな影響を与え、ダリは原爆に対する恐怖とともに、原子物理学の世界へと惹きつけられたのです。
特に「物質の不連続性」に興味を抱き、「現代の最も先験的な発見は、物質の構造に関する原子物理学の発見である。物質は不連続であり、近代絵画におけるすべての価値ある実験は、物質の不連続性という、具体的であると同時に意義深い、唯一の思想からしか出発することが出来ないし、出発してはならないのである」と語っています。
そしてダリはそれが神の存在を証明していると解釈し、この確信がダリをしてカトリックへと帰依させます。
こうしてダリは、宗教と科学の融合を作品化していくことになります。
晩年1955年頃「最後の晩餐」 核神秘主義と呼び、原子物理学の理論を援用した「神秘宣言」を発表し、伝統的なキリスト教のイコンと崩壊のイメージの組み合わせを試みています。
最晩年には数学にも興味を持ち、ルネ・トムという数学者の「カタストロフィ(破局)理論」を「世界で最も美しい数学理論」であると絶賛し、それを作品にも取り入れました。それがこの(↓)ダリの絶筆となった作品「燕の尾」(1983年作)
数学には全く疎い管理人にはさっぱりなんのことやら分かりませんが、燕の尾が持つフォルムの曲線と、数学の積分記号やこの理論を図式すると曲線になるらしく、それらを絡めて作品に取り入れたということらしいです((*_*;)
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