こんにちは。管理人の河内です。
絵を描く上でのニッチな問題にについて取り上げているこのブログですが、今回は絵画の“背景”についてお話してみようと思います。
管理人の知る限りでは、技法書や絵の描き方をうたったサイトでは、道具の解説やモノの描き方などは随分沢山出されていますが、“背景の描き方”について書かれたものはほとんど見たことがありません。
これはたぶん絵が上手くなりたい一般の方にとって、背景は結構どうでもよくて、早く『人物が上手く描けるようになりたい!』とか『うちのネコちゃんを可愛く描きたい!』という要望が多く、それに答える形で色んな専門家がじゃあ「人物はこう描きましょう」とか「こう描けば猫ちゃんは可愛く描けますよ」みたいな解説になっているんだと思います。
でも考えてみると、背景は画面の半分かそれ以上の面積を占めることも多く、ここの色や表現が変わると作品全体の印象がガラッと変わってしまいます。
今回はそんな実はとても重要な背景とその描き方について解説してみたいと思います。
目次
① 背景とは?
“背景” 簡単に“バック”と言ったりもしますが、もっと広げて言えばモノの描かれていない『余白』全般を言っても良いと思います。
いわゆる具体的なモノを描く“具象画”では、モノが主役であり背景はどうしても脇役となってしまいます。
でも絵画にとって背景は、描かれたモチーフがどういう状況にあったのかを説明する場面設定の役割を担っています。
さらに画面の大きな部分を占める場合が多く、背景の色や表現方法によってモノだけでなく作品の雰囲気全体に大きな影響を与え、ひいては作者の意図を伝えるとても重要な要素なのです。
② 背景のよくあるパターン
実際皆さんは《人物画》や《静物画》を描かれるとき、背景はどうされていますか?
こう聞かれると答えに詰まってしまったり、「テキトーに」と答える方も多いのではないでしょうか。
モデルさんやモチーフなどのモノは一生懸命描くけれど、さてバックはどうしよう?と悩んだ経験のある方は結構多いと思います。
デッサンでは通常背景を描かないことの方が多くそれで全く問題なかったのですが、油絵を描こうとしたときそれまでデッサンしかしてこなかった方にとっては初めてぶつかる問題といえますね。
よほど何かしらイメージをちゃんと持っている方(そんな人は初心者にほとんどいません(;^_^A)でなけれは必ず悩むところではないでしょうか。
そんな方のために、ここでは背景を描く上でよく使われるパターンをいくつかご紹介してみたいと思います。
①向こう側に見えているものを描く。
モチーフやモデルさん越しに、後ろに見えたものをそのまま描く。
②構図を工夫して画面に大きな余白を作らない。
これは人物を真ん中に配置したりモチーフを大きく描く、または壁に布などを描けてモチーフを立体的に組んだりして背景に空間を作らないようにするということですね。
余白が小さければそれほど悩むことはありませんから。
③好きな色を塗る。
もしくは描きたい絵の印象に合うような色を塗る。またはモチーフの印象を象徴するような色を塗る。
④自分でアレンジして描く。
この他にもコラージュをしたり、絵の具に砂などを混ぜて表面に凸凹をつけたりペインティングナイフで表情を面白くしたりなど様々テクニックがありますが、
それはまた別の機会にご紹介したいと思います。
③【実践編】背景の描き方
では上で紹介した4つのパターンを具体例を示しながら、また実際具体的にどのように描いていけばよいかを解説していきたいと思います。
背景パターン①
モチーフ越しに見えたものをそのまま描く。
これは分かりやすいですね。
主役とするモチーフ以外のものも見えまま描くだけです。
この場合の注意点は、そのまま描くといっても主役の人物やモチーフが見えなくなってしまう恐れもありますので、モノがいろいろありすぎるようでしたら主役を邪魔しない程度に何を描いて何を描かないかという取捨選択をして描きましょう。
またさらに一歩進んで、背景に何を描くかで絵の中の世界がどういう状況だったのかを説明することが出来ます。
例えばモデルさんの向こう側に、イーゼルを立てた別の生徒さんを描くことで、この絵は「アトリエでの制作風景なんだな」と見ている側は理解できます。
そのような例としてエドワール・マネの『ナナ』を見てみましょう。
女性が鏡の前で化粧をしている場面を描いた作品です。
背景には様々なものが描かれています。
まず壁には鶴のような鳥が描かれた壁画。その手前には豪華なソファとふかふかのクッション、そこにはステッキを手にしたシルクハットのいかにもブルジョアな紳士が座っています。
左には切れていますが豪華な調度品が見えます。
これらからここは当時の高級商館であり、この女性は高級娼婦、男性はその客ということが容易に見て取れます。
マネはただあるものを描いたのではなく、それぞれのアイテムを使ってこの場と人物を説明しているのです。
マネについてはこちらの記事で詳しくご紹介していますのでよろしければご覧ください⇒『保守的革命家』エドワール・マネの生涯と代表作をご紹介します!
さらにこちらの作品をご覧ください。
こちらは『真珠の耳飾りの少女』で有名なフェルメールの作品です。
フェルメールといえばこうした室内での何気ない日常を描いた作風で知られていますが、この作品もそんな一コマです。
実はこの作品、背景の白い壁には初めはキューピッドの絵が掛けられているのが描かれていたことがⅩ線撮影の結果分かっています。
つまりフェルメールはいったん壁に絵がかかっている状態を描いた後それを消し、さらにカーテンを描き加えたのです。
壁の絵を消すことで、鑑賞者の目はより女性の表情へと向かいやすくなり、さらにカーテンを手前に描くことで鑑賞者自身がこの絵の中(女性と同じ部屋の中)に入って実際に彼女の様子を覗き見ているような感じにさせる効果を生みだしているのです。
そこには描いてみたけどやっぱりない方が良いというフェルメールの判断がありました。
さらにこちら
この作品では何も描かれていない余白としてのバック。
フェルメール特有の柔らかな光が差し込み淡く反射してとても美しいですね。
ここにはあえて何も描かない方が、少女の視線に見る人の視線も惹きつけられるという効果があるのです。
さらに言うとこの柔らかで暖かな壁の光の反射は彼女の幸せに満たされた心を象徴しているともいえると思います。
フェルメールについてはこちらで詳しくご紹介しておりますのでよろしければご覧ください⇒【静謐な光の画家】フェルメールの作品と生涯を解説します。
このようにいろんな要素を描き込むことで、その場の状況を感じさせることもできれば、あえて描かないことでより作品の主題が伝わるということもあります。
どちらが良いかは作者の意図ということになりますね。
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