こんにちは。管理人の河内です。
この記事では前回に引き続き、西洋絵画に登場する動物や植物などが持つもう一つの意味、シンボルや寓意などをご紹介していきたいと思います。
前回の記事はこちらをご覧ください。⇒【美術館での手引きに】西洋絵画を読み解くための《象徴(シンボル)と寓意(アレゴリー)》をご紹介します。(前編)
目次
【植物編】
樹木・・・樹木は生命そのものを表し古代から世界中のあらゆる場所で聖なる対象、崇拝の対象とされています。
春から夏には葉が生い茂り花を咲かせ、秋から冬にかけては葉が落ち一度は死を迎えます。そして
また春には再生する。こうした命の循環は、どんな文化でも生命や生命力の象徴となることは誰でも納得がいくと思います。
さらに根は地中に、幹は地上、枝葉は空中と三つの世界にまたがっていることから冥界、現生、天界と宇宙全体を表すものとして各地の神話などにも登場します。
花…花は実に多くのシンボルでありアトリビュートになっています。
分かりやすいところでいうと、“春の寓意”であったり、女性や性的なものの象徴であったり、多産や豊穣のシンボルなどです。
しかしその美しさが長続きしないことから、人生や美の儚さ、転じて死を感じさせる場合にも使われます。
さらにその魅力や美しさから清純さ、美徳、色欲、不道徳まで相反する意味合いが付与されるのも花の特徴といえます。
リンゴ…「禁断の果実」として最も有名なシンボルかもしれません。
アダムとエヴァが楽園を追放されるきっかけとなった“知恵の実”が何であるかは聖書には書かれていませんが、西洋絵画では多くの場合リンゴによって表現されます。
このことから“原罪”の象徴ともなっています。
旧約聖書のアダムとエヴァが、神から禁じられていた『知恵の実』を食べたことで神の怒りを買い楽園を追われました。
そして人間は死する存在となったばかりか、女は出産の苦しみを与えられ、男は土に返るときまで食べるために額に汗して働くことになりました。
この時の「知恵の実」がリンゴだとはどこにも書いていないのですが、リンゴをラテン語で“malum”といい、この言葉には『悪、災難、罰』などの意味もあることから知恵の実をリンゴとしたのではないかという説があります。
ザクロ…多くの種を持つことから多産と繁栄の象徴。
キリスト教では、その多数の種を「多様の統一」と考え、多くの人々を統括する権威としての「教会」や「君主」の象徴としました。
さらにその赤い実と果汁から血の象徴でもあります。
イエス・キリストの受難の象徴である一方、不死や復活の象徴ともされています。
そのため聖母子像の絵画には、ザクロが多く描かれています。
白い百合の花・・・純潔を象徴する聖母マリアのアトリビュート。
聖書の中に聖母と百合を関連付ける表記はありませんが、百合は古代から豊穣女神の聖花とされてきたことから、それがいつしか百合の持つ清純なイメージと相まって聖母のアトリビュートとなったようです。
百合が聖母マリアと関連付けられたのは2世紀以降のことで、マリアの死の3日後に彼女の墓を訪れると薔薇と百合しかなかったという伝説が広まり、純白の花弁がマリアの汚れなき身体を、黄色い花粉のおしべが黄金に輝く魂を表すとして聖母復活の象徴となりました。
赤い薔薇・・・愛の象徴。美の象徴でもありますが、ひるがえってこの世の儚さという意味もあります。
古代から神聖な花とされ女性性器のシンボルであり、処女の経血と関連付けられ生殖と豊穣を象徴する聖花として大母神に捧げられてきました。
古代ローマではヴィーナスの聖花。
また《棘のない薔薇》は、4世記、ミラノの司教聖アンブロジウスが、アダムとエヴァが原罪を犯す以前の天上の薔薇には棘がないと語ったことから、無原罪とされた聖母マリアを「棘のない薔薇」とも呼ばれ、マリアのアトリビュートとなりました。
アネモネ…その赤い色が血を連想させることからキリスト磔刑の場面で流された血を表し、死を象徴する。
カーネーション…現代では母の日に送る花として定着していますが、イエスが磔刑で亡くなった時、聖母マリアの目から流れた涙がカーネーションになったという伝説があり、ここからイエスの受難と聖母の悲しみを表す花となりました。
またフランドル地方(ベルギー、オランダ)では結婚の際に新婦がこの花を付け新郎が探すという習慣があったことから、15,6世紀のフランドルで描かれた肖像画でカーネーションを持っていればその人物の婚約を表しています。
オリーヴ・・・オリーヴの枝は勝利と平和との象徴。
旧約聖書の有名な《ノアの箱舟》で、ノアが神の怒りによって起こされた大洪水が収まったかどうかを調べるために鳩を放ちました。
その鳩が、オリーヴの枝を口にくわえて戻ってきたことでノアは嵐が収まったことを知るのですが、
このお話から鳩とオリーヴは神との和解を表し、平和の象徴となりました。
またギリシャ神話では、主神ゼウスを讃えるオリンピック競技のためにヘラクレスがオリーヴを持ち帰ったとされ、栄誉や繁栄の象徴となりました。そのため“名声”や“平和”の寓意として描かれる女神たちがオリーヴの枝を手にしていることが良くあります。
月桂樹…月桂冠は勝者にかぶせるものとして名声の寓意や勝利の寓意のアトリビュートです。
糸杉・・・糸杉は、常緑樹であることから永遠の命を表し、オベリスクのような形状は男根に見立てられ豊穣神に捧げられた木とされてきました。
しかし大地母神の暗黒面(冬、冥界、死)に結び付けられるようにもなります。
死と結びつけられたことでヨーロッパでは糸杉は墓地に植えられ、棺桶の材料として用いられてきたことから死の象徴として描かれます。
果物(果物籠)…植物の果実である果物は、子孫繁栄の隠喩であり、豊穣や大地の寓意。
アダムとエヴァが「知恵の木の実」を食べるという“原罪”を犯したことから、人間は死すべき存在となったとされ、そこから“原罪”や“人間の貪欲”を表すようにもなりました。
ブドウ…秋の寓意。ギリシャ神話のブドウと酒の神デュオニュソス(バッコス)のアトリビュート。
キリスト教では『ヨハネによる福音書』にはカナの婚礼にて、イエスは水を葡萄酒に変える奇跡を起こし、『マルコによる福音書』では皆に渡した杯の葡萄酒を「これは、多くの人のために流される私の血である」といっていることから、ブドウはイエス自身を表しワインはイエスの血の象徴となりました。
古来よりワインの原料となるブドウは、神にささげる供物であり豊穣の象徴でもありましたが、その赤い色から生贄の血をも表してきました。
【色・模様編】
金色・黄色・・・光=神の色
黄色・・・黄色は中世絵画ではイエス・キリストを裏切ったユダの色として、またユダヤ人の色として否定的な意味合いの色で、当時蔑まれた人々の衣服に用いられました。
青・・・天空の色=天を象徴する。聖母マリアのマントに使われる。
縞模様・・・中世では黄色と同じくユダなど否定されるべき人物の服の模様として描かれたほか、現実においても死刑執行人や売春婦、道化などの社会のアウトサイダーが身に着けました。現在でも映画や漫画で囚人服に縞模様が使われているのはそのためです。
虹・・・神との契約の成就を示す。
まとめ
いかがでしたか?
長い歴史を持つ西洋美術では、シンボルやアトリビュートなどの約束事がいくつもあるのですが、私たち日本人にも通じる理解しやすいものもあれば、なじみの無いものもあり、知っていると知らないとでは絵を読む目がぐっと変わってきますよね。
管理人がこの記事を書くに当たっていろいろ調べたところ、例えば「蛇」のように同じものなのに全く正反対の意味を持つ(知恵の象徴でありキリスト教下では邪悪の象徴でもある)ものもがかなりあることに驚きました。
私たちは西洋美術とひとくくりに見てしまいがちですが、ヨーロッパは広く歴史も文化も様々あり、一つのアイテムも多義的な解釈を知っておくことはとても大切ということですね。
やはり美術の世界は奥が深い!なかなか一筋縄ではいかないところがまた深みに入り興味が尽きないところです。
ここに挙げたものはほんの一部ですが、皆さんの絵画鑑賞の手びきとしていただければ幸いです。
【象徴と寓意・アトリビュートに関するその他のおすすめ記事】
やっと、私が探してた絵画を読み解く「象徴言語」を具体的に教えてくれるサイトに出会いました。
ありがとうございます。これからこのサイトを少しずつ読んで理解を深めたいと思います。
ちなみに、私自身は数年前から絵画を勉強していますが、「名画のどこかそんなに素晴らしくて」「どこが良いのか?」が今でも分からなく、結局「見る者の感受性」がないと、絵は分からないもの。と思っていました。
また、別な記事でコメントさせていただきます。よろしくお願いします。
福田様 コメントいただきありがとうございました(*^_^*)
おっしゃる通り絵画は「見る者の感受性」ということは多分にありますが、私自身学生時代「感性」は磨くものだとよく言われました。
それはいわゆる「感覚的」なあいまいなものだけではなく、「知識」や「情報」として知ってい見るか、知らずに見るかによって人間の感性の刺激のされかたも大きく変わると思います。
絵画作品に込められた情報や知識を積み上げることで、感性もより磨かれより深く作品のすばらしさを味わえるよになると思います。
私自身は画家で研究者や評論家ではありませんので、拙い情報ですがこのブログでそのお手伝いが出来ましたら幸いです。