こんにちは。管理人の河内です。
今回は前回に引き続いてウィーン世紀末の巨匠グスタフ・クリムトの代表作「その2」をご紹介します。
目次
クリムトの代表作⑧ 「マルガレーテ・ストンボロー=ヴィントゲンシュタインの肖像」
180×90㎝ 1905年 バイエルン州立絵画コレクション ノイエ・ピナコテーク蔵
縦長の構図に原寸大に近い大きさで描かれた肖像画。
華美で豪華な印象が強いクリムト作品の中にあって、今作ではモデルのポーズや表情は穏やかで、リラックスしたポーズからくる曲線美など優雅で自然な表情が印象的です。
自然表現的な人物表現に平面的背景という組み合わせの構成は同じですが、ここでは金の装飾がわずかにアクセントとして使われているのみで、華やかな装飾性は極限まで抑えられ白、青、緑という寒色の繊細で微妙な色調によって表現されています。
クリムトの代表作⑨ 「処女(おとめ)」
190×200㎝ 1913年ごろ プラハ国立美術館蔵
複数の裸婦が渦巻の文様や色とりどりの花々とが複雑に絡み合い、まるで一つの大きな渦となっています。
クリムトの描く文様は、常に性的象徴が隠されていて処女たちを取り巻く「渦巻き」は女性器を暗示しています。ここでは彼女たちがその一部というわけです。
処女たちは皆眠りの中にいるようであり、画面全体が大きく渦を巻くことでめくるめく性的恍惚を想起させ、悦に入った表情でそれはさらに強調されています。
クリムトの代表作⑩ 「エミリー・フレーゲの肖像」
1902年 181×84㎝ ウィーン市立歴史美術館蔵
クリムトの旺盛な女性関係はよく知られていますが、その中で最も深い愛情関係にあったのがこのエミリー・フレーゲです。
彼女はクリムトの弟エルンストの妻ヘレーネ・フレーゲの妹でした。クリムトは彼女たち姉妹の仲立ちによって社交界との繋がりを持つことが出きました。エミーリエはウィーンに高級洋装店を持ち、クリムトはその店のドレスのデザインもしていました。
寒色を基調に赤や金がアクセント的に使われており装飾性を持ちながら落ち着いた雰囲気の作品です。
クリムトの代表作⑪ 「希望Ⅰ」
1903年 181×67.5㎝ オタワ カナダ国立美術館蔵
横を向いた妊婦がこちらに不審な眼差しを向けています。
この絵のモデルはヘルマという名前しか分かっていません。実際に妊婦であったこの女性は初めモデルを務めることを強く拒んだといいます。しかし当時プロのモデルはいわゆる社会的底辺にあったため仕事としてしぶしぶ承諾しました。
通常波打つ赤毛は娼婦の表現として使われ、このためこの女性は母であり、官能的に誘惑する女という二重性を帯びています。そのため発表当時から様々な解釈が行われてきました。「母性」「豊穣」というポジティブなものから「悪魔の母性」「道徳への抗議」「女性的本質のネガティブ」を表現しているなど。
希望というタイトルとは裏腹に、背後には不吉でおどろおどろしい男や骸骨が描かれ、生まれてくる生の喜びよりも子供がこれから背負う災厄を暗示しているかのようです。
この絵のもとの所有者でクリムトのパトロンであったフリッツ・ヴェルンドルファーは、この作品を特別に立てた祠堂に保管し、扉に鍵をかけしばらくは公にされていませんでした。
クリムトの代表作⑫ 「生命の樹」
この作品は、クリムトのコレクターで支援者であったベルギーの富豪アドルフ・ストックレ―のブリュッセルの邸宅(↓)の食堂壁面を飾るために、制作された連作『ストックレ―・フリーズ』の一部です。
この邸宅は、ウィーン分離派の建築家ヨーゼフ・ホフマンに依頼して設計したもので、ストックレ―は彼らに全く自由に創造させ費用に制限も設けませんでした。
黄金の地に黄金の大樹が渦巻状の枝を目一杯に伸ばし、それ自身が生命の生成を暗示しています。
幹の部分には『アデーレ・ブロッホ=バウワーの肖像』や『接吻』でも用いられた円や三角形が、多彩な色を使って装飾されており、これらはイタリア・ラヴェンナのモザイク(ビザンチン美術)からの影響で、作品全体をより装飾的で華やかにしています。
また枝には一羽の鷹または鷲がとまっています。これは古代エジプト美術からの借用で、その他図案化された目など古代の神ホルスとの関連が指摘されています。
このように本作は、クリムトのこれまでの装飾美がすべて詰まった集大成的作品と言えます。
クリムトの代表作⑬ 「樹下の薔薇」
110×110㎝ 1906年 オルセー美術館蔵
クリムトは肖像画のほかに点描を使った装飾的な風景画も多く残しています。
大樹の下でひっそりと咲く淡い色の薔薇。
この作品も他の風景画同様に点描の技法が使われ、そのため色彩は鮮やかです。
奥行きはなく平面的で装飾性を前面に押し出したクリムト風景画の典型的な作品で一見すると抽象画のようにも見えます。
クリムトの代表作⑭ 「白樺の林」
1903年 110×110㎝ オーストリア美術館蔵
白樺とブナの木が立ち並ぶ秋の林を描いた作品です。
地面は紅葉した色とりどりの落ち葉に覆われています。
地平線を高い位置にとり、木々の間に見える地面に着目した構図で描かれていて、鑑賞者はその林に引き込まれるようですが、そこに遠近感はありません。
垂直に伸びる白樺の不規則に繰り返すリズムなど、クリムトは風景画においても平面的かつ装飾的な様式化された表現を使って表現しています。
場所は1900年以降、毎年夏にクリムトが訪れた避暑地アッター湖の近く。ここでアッター湖をはじめクリムトは多くの風景画を残しています。
クリムトの代表作⑮ 「死と生」
1908~11年 レオポルトコレクション蔵
今作は1911年のローマ国際美術賞で金賞を獲得したクリムト晩年の代表作です。
タイトルの通り、画面は中央に黒い断絶を挟んで左右に生と死の世界を象徴するものが配千沙される構図となっています。
画面左には『死』を象徴する骸骨(死神)が描かれ、右側には生まれたての赤ん坊をはじめ数人の男女が絡み合うように描かれ『生』を象徴しています。
死神は暗く淀んだ黒を背景に不気味に微笑んで知るかのようです。その体を包むマントは青、紫、緑、黒といった暗い寒色であり、そこにはいくつもの十字架が描かれています。
右の『生』の群は、明るい暖色を中心にクリムト作品に頻繁に登場する三角形や円、渦巻き、図案化された花などで包まれています。青い頭巾をかぶった女性以外は壮年期の若々しい人物が多く、また男性は一人、ほかは女性が多いこともその美しい肉体とともに声明を産み出す存在であることが強調されています。
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