こんにちは。管理人の河内です。
今回は、グスタフ・クリムトの絢爛豪華な代表作を詳しく解説していきたいと思います。
クリムトの作品に登場する美しくも怪しい雰囲気をまとった女性をよく『ファム・ファタール』と形容されます。
あまり聞きなれない言葉ですが、『ファム・ファタール』とは「運命の女性」「男を惑わせ破滅へと導く妖婦」という意味で使われます。ただ美しく性的魅力だけでなく、死の予感や退廃感というネガティブなイメージがつきまとう、そんな女性たちとしてクリムトは女性を描いています。
クリムトの作品は、この「ファム・ファタール」と『金の時代』に代表されるような金色や様々な文様がミックスされた絢爛豪華なものが代表的ですが、その他にも肖像画や風景画では飾り気のない落ち着いた雰囲気のものもあります。それぞれ色んな意味がそこには込められていますので読み解いていきたいと思います。
目次
クリムトの代表作① 「パラス・アテナ」
1898年 60×44cm ウィーン市立歴史美術館蔵
第2回ウィーン分離派展に出品された作品です。
主神ゼウスの娘であり知恵と芸術、戦いの女神アテナ(ローマ神話ではミネルヴァ)。パラスとはアテナの別の呼び名です。
黄金の兜と甲冑に身を包み、槍を持って威厳あるポーズでこちらを威圧するかのように凝視しています。彼女の表情には同時代のベルギー象徴主義の画家フェルナン・クノップフ(↓)の影響が指摘されています。
それは母であると同時に処罰する父としての面を合わせ持つ、官能的であり威嚇的な存在として描かれています。
背景にはギリシャの壺絵から借用された文様が描かれ、フクロウはアテナの象徴です。
その胸には見たものをすべて石に変えてしまうゴルゴンがあしらわれ、舌を出していますが、これは保守的な当時のウィーン美術界に対する抵抗を表現していると言われています。
クリムトの代表作② 「音楽Ⅰ」
1885年 37×44.5㎝ バイエルン州立絵画コレクション ノイエ・ピナコテーク蔵
クリムト初期の作品で、当時流行したロマンティックで象徴的な主題を扱った好例です。
クリムトは同じテーマで絵画、リトグラフと少なくとも2点描いています。
今作品はオーストリアの実業家ニコラス・ドゥンバの私邸を飾るために描かれました。
青い衣を纏い、黄金の竪琴を引く女性の表情はぼんやりとしていますがどこか物悲しさを感じます。
竪琴は古代から音楽を象徴し、画面左のスフィンクス像は詩的幻想や芸術の自由の象徴であるといわれています。
クリムトの代表作③ 「ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)」
1899年 252×56.2㎝ ウィーン国立図書館演劇コレクション
右手に真実を映す水晶(あるいは鏡)を持ち、うつろな表情を浮かべた裸体の女性がまっすぐこちらを見据えています。
左右にタンポポの花が咲いているのは、この女性が新しい芸術運動である分離派を聖なる春を象徴するヴィーナスとする説があります。
足元は水に浸かっているようにも見え蛇が絡みついていて、これも「真実を貶める邪悪な敵意を示している」、「時の寓意」としてとらえるなどいろいろな説があります。
しかしこうしたあからさまな裸婦像は、発表当時旧来の保守的な人々からは大きな批判を受けました。
クリムトの代表作④ 「接吻」
1907~08年 180×180㎝ ベルベデーレ宮殿オーストリア絵画館蔵
この作品は、クリムト自身と恋人のエミーリエ・フレーゲを描いたものと言われています。
クリムト作品の中でも最もよく知られる人気の作品ではないでしょうか。
当時非難の渦中にあったクリムトですが、この作品ばかりは当初から絶賛され、発表と同時にオーストリア政府買い上げとなりました。
クリムトの画歴の中で特に絢爛で装飾性に富み、金色を多用した『黄色時代』の一つの頂点を成す作品です。
この絵の女性は、クリムト作品特有のファム・ファタール的な要素はなく、恋にすべてをゆだねる女性として描かれています。恋人達は抱擁して一体となり、画面の一部としてこの黄金世界と同一化しています。
美しい花々や植物は文様化されパッチワークのような構成で、絢爛華麗な装飾性は日本の屏風絵など琳派からの影響が見てとれます。また男性には四角形、女性には円形(渦巻き)の模様があしらわれた衣装をまとっていますが、これらはともに男女を象徴しています。
クリムトの代表作⑤ 『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I』
1907年 138×138㎝ ニューヨーク ノイエガレリエ蔵
モデルのアデーレ・ブロッホ=バウアーはオーストリアの実業家フェルディナンド・ブロッホ=バウアーの妻です。
彼女はユダヤ系の銀行家モーリッツ・バウワーの娘で、彼女がひらくサロンにはウィーンの上流階級の人々が集い、政治家、芸術家なども出入りしていました。
ブロッホ=バウアー夫妻はウィーン分離派の支援者でもあり、クリムトは彼女の肖像を2枚描いてこちらは通称『黄金のアデーレ』、『オーストリアのモナ・リザ』とも呼ばれています。
アデーレの纏う衣装にはエジプト美術から引用した三角の中の目が描かれ、背景には市松模様や唐草模様という日本美術からの引用があるなど異国趣味が随所に見られます。
この作品は戦時中ナチスによって略奪され、戦後にオーストリア国家所蔵となりました。しかし元の所有者であるフェルディナント・バウアーの姪マリア・アルトマンが所有権を訴えて裁判を起こして勝訴しました。この事件は2016年に『黄金のアデーレ』として映画化されています。
その後2006年にオークションに出されて当時の史上最高額(1億3500万ドル(約160億円))で落札され、現在はニューヨークのノイエガレリエで展示されています。
クリムトの代表作⑥ 『ユディトⅠ』
84×42㎝ 1901年 ウィーン オーストリア美術館蔵
ユディトは旧約聖書に登場するユダヤ人女性です。
敵対するアッシリアの将軍ホロフェルネスを誘惑し、泥酔させた後、彼の首を切り落としました。こうしてアッシリアを勝利に導いたユディトはユダヤ人にとって英雄的な女性ですが、クリムトはそんな彼女を妖婦として描きました。今作ではその切り落とした首を胸に抱いています。
残酷な場面でありながら、彼女の開いた唇と半ば閉じた目はエロティックで、まるで恍惚に浸っているような表情です。また宝石を散りばめた首飾りは、斬首、絞殺などを暗示し性の恍惚と死を結びつけているのです。
この作品に漂う退廃的なムードが、ユディトよりむしろ伝説のファム・ファタール、サロメ(洗礼者ヨハネを処刑させた悪魔的な女)としてとらえられ、事実長い間「サロメ」と呼ばれていました。
クリムトの代表作⑦ 『ダナエ』
1907年 77×83㎝ 個人蔵
クリムトは晩年神話にモチーフを取った作品を多く制作しました。
その中でも今作はエロティシズムを前面に押し出した作品です。
ダナエとはギリシャ神話のアルゴス王アクリシオスの娘です。
ある時王に、娘が産む子はやがてアクリシオス(祖父)を殺すであろうという神託がありました。それを恐れた王は、娘ダナエを青銅の塔に閉じ込めてしまいます。
そんなダナエを主神ゼウスが見初めます。
この作品は、閉じ込められ自由を奪われたダナエが、黄金の雨に姿を変えたゼウスに侵されている場面です。
このような悲劇的な場面であるにも関わらず、ダナエは目を閉じ、口を半ば開けて黄金の雨に身を任せています。それは性的恍惚の暗示です。
この主題はレンブラントをはじめ美術史上多くの画家によって描かれてきましたが、このクリムトの『ダナエ』では物語的な要素はすべて排除され、生殖行為が時間を越えた瞬間として描かれており女性『性』のみが存在しています。
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