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【絵画における立体感の出し方】そもそも立体感とは何か?~その②

こんにちは。

管理人の河内です。

今回は“絵画における立体感の出し方”についての2回目です。

前回をまだお読みでない方は是非そちらからご覧になってください。

⇒【絵画における立体感の出し方】そもそも立体感とは何か?

 

 

前回は、立体感を感じさせるためには陰影が必要であり、それを明暗の濃淡で表現するということ、さらに実際にモチーフを描くときの注意点などを解説しました。

後半は、実際に明暗のある作品とない作品でどう見え方が違うのか?明暗を出す練習の仕方などについてもご紹介してみたいと思います。

 

 

目次

立体感表現~明暗がある・ないによる違い

 

では実際に作品を見ながら立体感のある絵と立体感のない絵を見比べてみましょう。

ここで一つ断っておきたいのですが、絵画において立体感がないということは必ずしもマイナスではないということです。

立体感をあえてなくすことで、装飾性や画面構成自体を見せることを目的とした場合はむしろ平面的に処理することもあります。

これは有名なピカソの作品などを思い浮かべていただければわかると思います。ここではあくまでも自然描写、写実的な絵画を念頭にお話ししています。

 

こちらは言わずと知れたダ・ヴィンチの「モナ・リザ」です。

自然界に線は存在しないという考えのもと、陰影法による立体感の表現はこのダ・ヴィンチによって完成されました。

 

そしてこちらは印象派の先駆けとなったエドワール・マネの作品。

「モナ・リザ」に比べ肌の部分は多少の濃淡がありますが、洋服の色や帽子などは絵具がべったりと塗られ、ほとんど陰影がありません。

 

 

 

立体感を出す方法~練習法

ではここで具体的に立体感を出すための練習法を解説していきたと思います。

これは使う画材によってそれぞれ違いますので画材ごとに見ていきましょう。

 

 

①鉛筆デッサンの場合

一番身近で基礎となる鉛筆デッサンの場合は、鉛筆のタッチを重ねる=線を重ねてトーン(明暗の階調)を表現します。

なので線を引きながら(これをハッチングと言ったりします)、力加減を変えて薄くしたり濃くしたりする練習をしてみましょう。

 

例えばこんな感じです。

線の長さも大きなタッチから小さなタッチまでいろいろ引けるように練習してみてください。

長い線を引く場合は鉛筆を長く持ち、手首あるいは肘から前腕全部を使って大きなストロークを使うように引いていきます。

逆に短いタッチの場合は鉛筆を短く持ち、しっかりと立てて引いていきます。

どちらとも手の動きに合わせて弧を描きがちですので、あえてまっすぐな直線を引く練習をしましょう。

 

そしてこの線の向きを変えて重ねること(これをクロス・ハッチングと言ったりします)でより密度を上げ、さまざまな濃淡の階調を作れるように練習してみて下さい。

 

これをある程度練習して濃淡の差がつけられるようになったら次はグラデーションを描いてみるのも良いと思います。

大きさは縦4~5cm、幅は2~3㎝ぐらいで帯を描きます。

最初は10段階でも難しいかも知れませんが、出来れば13~4段階に分けて少しずつ濃淡をつけていきましょう。

グラデーションを作ることで手だけでなく眼の方も鍛えられてきます。

実際濃淡の諧調を増やそうと思っても自分の眼がそれを認識できなければ無理な話になります。

ちょっとした淡い違いを見分けられる眼も同時に鍛えましょう。

この時の塗り方はクロス・ハッチングです。

 

 

②木炭・パステルの場合

次に木炭やパステルで描かれる場合は、塗るときの力加減と塗った後こすったり、叩いたりする加減で濃淡を出します。

といっても一回でそれほど幅が出るわけではないので塗ったら叩く、擦るまた塗る、を何度か繰り返すことで徐々に濃淡の差を出していきます。

 

木炭でも鉛筆と同じようにグラデーションを作ってみましょう。

 

 

③水彩画の場合

水彩画の場合は、色の濃さを水の量によって加減します。

明るい(=薄い)場所は紙の白さを利用しますので水を多めに、暗い(=濃い)場所は水の分量を少なくします。

 

ここで注意が必要なのは、水彩の場合色を塗った直後と乾いた後の色の濃さがずいぶん違うという点です。

 

塗った直後は水分が多く、そのため色の発色がとてもよく強く濃く感じます。

しかし実際時間がたって乾いてみると、かなり薄くなってしまい印象がまるで違うのです。

ですから暗い場所、色を濃く塗る場所は思い切って多量の絵具を使って塗る必要があります。

管理人の経験からすると、塗った直後と乾いた後とでは5倍くらい変わると思っておいた方が良いと思います。

しかしなかなか色を濃く塗るのは勇気と思い切りがいるのですが、そこは経験を積んでこれでもまだ足りないかなという予測を付けられるようになることが大事です。

 

④油絵の場合

最後に油絵で濃淡を作る場合ですが、これにはいろいろな方法があります。

上記で上げた三つのやり方すべてを使うことが出来ます。

例えば鉛筆のように細い筆を使い、オイルで薄く溶いた絵具を丹念にクロス・ハッチングで重ねていくやり方。

これは北方ルネサンスの画家たちが使った手法ですが、下の作品のように緻密で繊細な表現が出来ます。

しかしこの手法はとても忍耐と時間のいる“職人芸”でもあります。

北方ルネサンスの画家ハンス・ホルバインの作品。

 

またレオナルド・ダ・ヴィンチなどは、塗った絵具を乾かないうちに指で擦ってぼかしたり、絵具をオイルで薄く溶いた状態でレイヤーを何層もかけるように重ねたりして独特の陰影を表現しています。

 

 

立体感がなくなった時の対処法

絵を描かれている方にはこんな経験はないでしょうか?

初めは割としっかりとした立体感や量感があるのに描いていくうちにそれがなくなってきて、最後はペッタンコになってしまった。

これには大きく二つの原因が考えられます。

 

一つ目は描写が進むにつれて細部を描き過ぎて、大きな全体像が見えなくなってしまったため。

 

もう一つは特にデッサンの場合、描き込むうちに明暗の階調がなくなってしまった。ということです。

 

ですので対策としては両方共通して言えるのは、作品やモチーフから離れて見ることです。

距離をとり、モチーフの全体像をぼんやり眺めて見たり、目を細めて見たりすることです。

そこから見えた印象、雰囲気をもう一度取り戻すことを目安にもう一度モチーフを大きな塊として捉えなおすことが重要です。

 

この時多くの場合、あえて絵を“つぶす”ことが必要となります。

『折角頑張って細かいところまで描写したのにつぶすの?』

と思われるかも知れませんが、ここはあえて細部を潰すことで全体像が見えやすくなるのです。

 

そして明暗の階調が亡くなってしまった=どこも同じようなグレーで覆われた状態です。

この時も離れて見た時の印象を復活させる必要があります。

思い切って明るいパート、中間のパート、暗いパートの三つぐらいに分けてみましょう。

 

 

“つぶし”方は、暗い部分は鉛筆の場合はティッシュペーパー、油絵具や木炭デッサンの場合は布などで大きくこすります。また水彩の場合は暗い色を沢山溶いて一気に暗い部分に塗ります。

 

こうして暗いパートがぼやけた後は、反対に明るいパートを練ゴムで取ったり、油絵の場合は大きな筆で大胆に潰してしまいましょう。

 

しかし実際これをやるのは結構勇気がいります。

画塾などで先生について描かれている方は先生が無慈悲にも潰してくれるかも(;^ω^)?

 

こうして大きな塊としての陰影が出た後は、再度少しずつ細部を描き込んでいきますが、この大きな流れとのバランスをとりつつ描写していきます。

 

 

 

陰影法による立体感の歴史

最後にこの陰影によって立体感を表現する方法が何時ごろから行われてきたのか歴史についてご紹介しておきたいと思います。

誰が始めたのか限定的に語ることは出来ませんが、これはすでに古代ローマ時代に発見、使用されていました。

こちらの絵はなんと紀元前、今から2000年以上前に栄えたイタリアのポンペイ遺跡から発掘された壁画です。

 

そしてこちらはエジプトのミイラの棺に描かれたその故人の肖像画です。

これほど完成された陰影法の表現技術を持っていながら、ヨーロッパでは中世に入るとこの表現法は捨てられ(忘れ去られ?)宗教画に代表されるようにシンボリックな平面的表現へと戻っていきました。

 

そして14世紀になってようやくジョットによって陰影法による立体感の表現が蘇ったのです。ジョットについてはこちらにくわしい記事がありますのでご覧ください⇒《ルネサンスの先駆者・ジョット・ディ・ボンドーネの作風と生涯をご紹介します。》

 

そしてルネサンスの隆盛ともに、レオナルド・ダ・ヴィンチやラファエロによってその表現は頂点に達し、以降西洋ではこれをお手本として陰影による立体表現が続いていったのです。

 

しかしこの陰影を使った立体表現は、印象派の先駆者と言われるマネによって否定され、続くモネたち印象派によって完全に捨て去られてしまいます。

 

彼らはルネサンス以来の伝統的な表現をことごとく捨て、目に見える光の刻々と変化する現象をとらえようとしたのです。

 

しかし印象派が起こした革命によって、ものの存在感が失われることに表現の限界を感じたルノワールは晩年になって新古典主義やラファエロらの作品を参照し古典に回帰しました。

さらに近代絵画の父・セザンヌはタッチと色彩によってものの実在感を探求していくことになります。

 

続くピカソら20世紀の画家たちにとっては、立体感を表現することはそれほど価値のあることではなくなり抽象的な表現やクリムトに見られるようにあえて平面的に描く者も登場しました。

 

 

立体感の出し方~まとめ

いかがでしたか?

絵画を学ぶ上でのとても大切な“立体感”ですが具体的にどのようにすれば良いか?

それは光と影のグラデーションにポイントがありました。

 

最後に立体感の出し方をまとめておきましょう。

 

①光の方向を意識する-どちらが明るくてどちらが暗いかをしっかりと決める。

光の当たる方向を1方向に限定する。

③立体感が失われてきたら、もう一度光の方向を意識して大きな単位で明暗を付ける

(細かく描いたところが消えることになっても)

④細部を描き込むときも常に光の方向を意識する。

写実的な作品を描くのであれば避けては通れない課題ですので少しでも参考にしていただければ幸いです。

 

 

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