【美術館での手引きに】西洋絵画を読み解くための《象徴(シンボル)と寓意(アレゴリー)》をご紹介します。(前編)

こんにちは。管理人の河内です。

「美術における象徴シリーズ」今回で3回目になります。

まだ前の2回をお読みになっていない方は、是非そちらの方もご覧ください。
【美術館で思い出して!】美術鑑賞の手助けとなる西洋絵画における『象徴と寓意』について解説します!

【寓意と象徴】描かれたものには隠された裏の意味がある?

この記事では、象徴やアレゴリーには具体的にどういったものがあるのか?

もう少し詳しく知りたい方のために、具体的な判例集として、その代表的なものご紹介してみたいと思います。

目次

何を表しているのか?象徴の意味を知れば見方が変わる!?

例えばあなたが美術館で、猛々しく吠えるライオンや、幻想的な一角獣が描かれた絵を見ているとします。このような時、何も予備知識がなくとも、感覚の鋭い方なら「何か意味がありそうだ」と考える人がいらっしゃるかもしれません。

でも描かれているのがなんということのない犬や猫ならどうでしょうか?

ほとんどの方が、「可愛いね」、とか人物の隣にいれば「その人のペットだろう」という程度で素通りするのではないでしょうか?

もちろんそうした場合もあるでしょう。

でも実は犬は“忠義”を表し、猫は“悪”を表すシンボルである、なんてことをと知っていたとすれば、同じ絵でも随分見方が変わってくるのではないでしょうか?

こうした描かれたものに、それ以上の意味や別の物語を与えるのが象徴や寓意の役割です。

よく「私には絵は分からない」「何が良いのか判断できない」と馴染みがないだけで食わず嫌いな方も多くいらっしゃいます。

でもこうした「知的な」アプローチ(西洋ではむしろそちらの方が大事だったりします)から美術の世界に触れていただければ、美術がぐっと身近に感じることが出来るのではないでしょうか。

ここから具体的にカテゴリーに分けてそれぞれが何を表現しているのか?どんな意味を持つのか?ご紹介していきます。
ざっと目次をみて気になるワードからお読みいただいて大丈夫です。
また気になる絵のあそこに~が描かれているけど~には何か意味があるのかな?といったところから見てもらっても面白いと思います。

【動物編】

・・・知恵の象徴。邪悪の象徴。

蛇は脱皮を繰り返すことから、古代の人々にとって永遠に生き続けると考えられていました。
日本でも神の使い(化身)として崇められてきたように、インドやエジプト、ヨーロッパでも様々に信仰、崇拝の対象となってきた動物です。
また、蛇の形状が男根を想像させることから性神となり、豊穣神として世界中で崇拝されてきました。

古代ギリシャではアテナイ建国に関わる初代の王ケクロプスが、半人半蛇とされアテナやアポロン、ヘルメスなどに蛇神性が残っています。

しかしキリスト教下で全く反対の意味合いを持たされます。
《旧約聖書》の“エデンの園”で、エヴァをそそのかし「知恵の木の実」を食べさせたのが蛇だったからです。
怒った神はそれまで4本足だった蛇を、生涯地べたを這いずり回り、塵を食らう存在としたとされています。

一方で蛇は、キリストの12使徒のひとりヨハネのアトリビュートでもあります。

小アジアのディアナ神殿の神官アリストデムスは、すでに二人の罪人が飲んで死んでいる毒杯をヨハネに与え、これを飲んで死ななければお前の神を信じようといいました。

ヨハネは毒杯をあおりますが死ぬことはなくさらに二人の罪人もよみがえらせたのです。
また「マルコによる福音書」に信じる者は「手で蛇をつかみ、また毒を飲んでも決して害を受けず」とあり、こうした記述からヨハネのアトリビュートとなりました。

 

アポロンは樹木神、蛇神でもあり、また巨大な蛇ピュトンを倒したことから絵画や彫刻では蛇が同時に登場します。

さらにアポロンの聖木が月桂樹とされ、月桂樹には薬効があったことから医術の祖ともさています。
そしてその子どもアスクレピオス、娘ヒュギエイアも医学の神とされ蛇を体に巻き付かせて描かれます。
こうしたことから蛇は古代から「知恵の象徴」ともなっています。

《ヒュギエイア(医学の部分)》グスタフ・クリムト作

 

ライオン・・・百獣の王ライオンは、その獰猛さで古代から恐れられると同時に、威厳ある姿が崇拝の対象でもあり太陽の象徴でもありました。
反対に「野蛮」「死」などとも結び付けられています。
その獰猛さに対する勇気や徳が、英雄や聖人に結び付いて聖書に登場する怪力で知られるサムソンやギリシャ神話の英雄ヘラクレスと一緒に描かれることがよくあります。

《ライオンと闘うサムソン》

 

また聖書には、聖ヒエロニムスは、ライオンの足に刺さった棘を抜いてあげるとそのライオンがなついたという伝説があり、ヒエロニムスとライオンが一緒に描かれます。

《聖ヒエロニムス》レオナルド・ダ・ヴィンチ

さらに黙示録に登場する4つの生き物を4人の福音書記者と対応させ、そのうちのライオンを聖マルコとしたことからライオンは聖マルコのアトリビュートにもなっています。

 

・・・犠牲・受難の象徴

「迷える子羊よ」という聖書のセリフを海外の映画などでよく聞きますが、羊は古来代表的な神に捧げる生贄にされた動物でした。
繁殖力が強いことから豊穣神や大母神などに捧げられました。

キリスト教では洗礼者ヨハネがイエスを「神の子羊」と言ったことからヨハネのアトリビュートとなり、後にイエスが十字架に掛かって全人類のために犠牲になったということで“受難”のシンボルともなりました。
イエス自身「私は良き羊飼いである」と言っています。

またおとなしく従順で群れを成すことから民を統率する「王」を羊飼いに喩えられてきました。

 

山羊・・・罪人・悪魔の象徴。

《魔女の集会》 フランシス・デ・ゴヤ 1797~8年

 

鹿・・・誠実な愛の象徴。

 

ケンタウロス(半人半獣)・・・暴力、獣性、肉欲の象徴

 

・・・忠義・忠誠の象徴。


ギリシャ神話では月の女神アルテミス(ディアナ)のアトリビュート。

 

…魔女の使い。聖母マリアのアトリビュート。

《最後の晩餐》ドメニコ・ギルランダイオ ここでは生命の象徴としてイエスの復活を暗示しています。

 

猫は多産なところから豊穣の神と結びつけられる一方で、放縦な性、淫欲とも結び付けられ娼婦の象徴ともなっています。

エドワ―ル=マネ作『オランピア』部分。娼婦の足元に黒猫が描かれています。

…魂の象徴。

 

 

白鳥…ギリシャ神話の音楽神アポロンのアトリビュート。またその美しさからヴィーナスの聖鳥。

 

・・・平和の象徴。淫欲の寓意、純潔の寓意。

古代から鳩は大母神の聖鳥で生殖や豊穣の象徴とされてきました。
ギリシャ神話ではヴィーナスのアトリビュートとなり、つがいで描かれる場合は、愛または愛欲を象徴します。ここから淫欲の寓意となる一方で、一生涯添い遂げるとされた鳩は純潔の寓意ともなります。

キリスト教では『ヨハネによる福音書』に「“霊”が鳩のように」天から降り、イエスの上に留まるのを見たとあることから「三位一体」を形成する精霊の象徴でもあり《受胎告知》や《イエスの洗礼》《使徒パウロの洗礼》などを描いた作品には必ず登場します。

【事物】

髑髏・・・死の象徴。マグダラのマリアのアトリビュート。

ジョルジュ・ドゥ・ラ・トゥール作

 

仮面・・・欺瞞の象徴。

 

 

茨の冠、3本の釘・・・イエス磔刑の暗示、イエスが十字架に釘付けにされた時、ユダヤの王を騙ったとして嘲りの印として茨の冠をかぶせたことによる。

物、天球儀・・・学問・知識の象徴。

 

…虚栄やうぬぼれの象徴。

カラヴァッジョ作《ナルキッソス》

ナルシズムの語源となったナルキッソスの物語にちなんで自己愛やうぬぼれを象徴します。

また鏡はありのままを映すものとして“真実の寓意”や、ありのままの己を知るものとして賢明の寓意”としても登場します。

《賢明の寓意》(部分) シモン・ヴ―エ 1645年ごろ

 

香油壺…イエスの弟子マグダラのマリアのアトリビュート。

ルーカス・クラーナハ作《マグダラのマリア》

マリアは「ルカによる福音書」でイエスが7つの悪霊を追い出して病をいやした女性とされ、十字架の磔刑に立ち会ったのち、墓から復活したイエスに最初に出会い、使徒たちにそれを伝えた女性です。
後に、娼婦だったマリアと同一視され、彼女が自らの髪を香油に浸し、キリストの足をぬぐったという話から香油壺がマグダラのマリアのアトリビュートとなりました。

 

…聖ペテロのアトリビュート。

”天国への鍵”を持つ聖ペテロ

『マタイによる福音書』でイエスは「あなたペテロ(石の意)私はこの岩の上に私の教会を建てる。・・・私はあなたに天の国の鍵を授ける」と語り、最初の教会設立者として初代ローマ教皇となりました。

 


 

編に続きます。⇒【美術館での手引きに】西洋絵画を読み解くための《象徴(シンボル)と寓意(アレゴリー)》をご紹介します。(後編)

 

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