こんにちは。管理人の河内です。
年が改まりましたので今回は今年一年の注目の展覧会をご紹介したいと思います。
昨年の2018年も色々重要な展覧会が目白押しでしたが、今年は一体どんな展覧会が来るのでしょうか?
注目は何といっても今年が日本とオーストリア国交樹立150周年ということで、それを記念して開催される3つの展覧会です。
オーストリアと言えばウィーン、ウィーンと言えば音楽の都として歴史ある町ですが、音楽と同じく美術の都でもありました。
特に過去ヨーロッパを支配したハプスブルク家のお膝元であり19世紀末には“百花繚乱”と言われるほど美しくも妖しい頽廃的な空気感が特徴で、同じ時期に芸術の都であったパリとは光と影のような印象を受けます。
そんなオーストリアから一体どんな作品が来るのでしょうか見ていきたいと思います。
目次
まず初めにご紹介するのはちょっとまだ先の話で恐縮ですが、今年の秋から開催予定の『日本・オーストリア友好150周年記念‐ハプスブルク展』です。
その名の通り600年の長きにわたりヨーロッパに君臨した名家中の名家、ハプスブルク家の集収した華麗なる名品が並ぶ展覧会が開催されます。
ウィーン美術史美術館が誇る名画のほか工芸品なども加え“一族の壮大な歴史をたどる”展覧会となっています。
日本でも名前くらいは聞いたことのある方も多いと思います。
特にフランス革命で悲劇の女王となったマリー・アントワネットは『ベルサイユのばら』として漫画や宝塚の演劇などで長く親しまれている超有名人ですが、彼女もまたオーストリアからフランスへ政略結婚のために嫁いだ王妃でした。
一族の歴史は古く中世にまでさかのぼります。
時は10世紀のスイス東北部、ライン川流域に城を持つ一豪族でした。
当時はローマ帝国が東西に分裂し、その西側である神聖ローマ帝国がこの一帯を治めていましたが実質的には各地の諸侯による連合国家でした。
そんな中1273年ルドルフ1世が帝国の君主に選ばれます。
ルドルフ1世は欧州各地の名家との政略結婚によってその勢力を拡大し16世紀になるとスペインとオーストリアを拠点としてヨーロッパ中を支配したのです。
さらにはコロンブスで有名な“大航海時代”にスペインはアメリカ大陸にまで勢力を広げたことで《日の沈まぬ帝国》と呼ばれるまでになりました。
そんな一族から神聖ローマ皇帝を歴代に渡って輩出しヨーロッパを支配したのです。
そして彼らの多くが一族の権威や栄華を象徴するために学問や芸術を庇護し、宮廷文化を支え西洋美術の発展に貢献したのです。
管理人が調べたところ、やはり『ハプスブルク家』を紹介するのがメインの展覧会ですので美術史的に重要な作品というよりは、いわゆる“お宝”としての価値あるものが多くなりそうですね。
往時をしのばせる豪華な装飾品や宝飾が並ぶと思われます。
そんな中で今展覧会の注目作品は、なんといっても“画家の中の画家”と呼ばれたベラスケス作『青いドレスの王女マルガリータ』でしょうね。
いわゆる政略結婚のための“釣書”として描かれた幼き王女マルゲリータの肖像。
この時はまだ8歳という少女でしたが豪華な真っ青なドレスに身を包み威厳漂う姿で描かれています。
また同時代にハプスブルク家から庇護を受けて活躍したルーベンスやティツィアーノ、デューラーなどの巨匠作品も来るそうなので楽しみですね。
会場: 国立西洋美術館(東京・上野)
会期: 2019年10月19日(土)~2020年1月26日(日)
次にご紹介するのは日本でも特に女性ファンの多い画家グスタフ・クリムトの展覧会です。
こちらも『ハプスブルク展』同様、日本オーストリア友好150周年を記念して開かれる展覧会となります。
東京会場:東京都美術館(東京上野公園内)
会期:2019年4月23日(火)~7月10日(水)
豊田会場:豊田市美術館
会場②:2019年7月23日(火)~10月14日(月・祝)
その名の通りベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館の監修のもと過去最多のクリムト作品が来日します。クリムトの展覧会は、東京でも約30年ぶりとのことです。
グスタフ・クリムトは、いわゆるウィーン世紀末芸術の最重要人物でありオーストリアの国民的画家です。
1862年に彫金師の息子としてウィーン生まれた彼は、若くしてその才能を発揮し一躍スター画家となりますが、当時の古い保守的な美術界に反旗を翻し仲間たちと新しい表現を求めて“ウィーン分離派”を結成しました。
妖艶で官能的な女性像と装飾的で絢爛豪華な作風で、象徴的な意味を散りばめた寓意画や肖像画を描き、現在でも圧倒的な人気を誇っています。
詳しいことはこちらの記事に書いてありますので、ぜひ展覧会の予習としてご一読ください。⇒
【退廃とエロス】世紀末ウィーンの巨匠グスタフ・クリムトを解説します!
今回は代表作『ユディトⅠ』がやってきます。
西洋美術ではポピュラーなこの『ユディト』。旧約聖書に登場するユダヤの英雄ですが、クリムトは妖艶で官能的な作品に仕上げています。
それから日本では絶対にお目に罹れないクリムトの傑作《ベートヴェン・フリーズ》。
なぜ絶対お目にかかれないかというと、実はこの作品は壁画だから。
分離派会館の帯状装飾(=フリーズ)として描かれているのでそれを剥がしてくるわけにはいきませんよね(;^_^A
今回はそれを成功に写し取った原寸大の複製画が来日するそうです。
この作品は、クリムトがベートーヴェンの交響曲第九番に想を得て描かれたもので“大猿”によって「敵意に満ちた力」を表現されそれを取り囲む美しい女性たちもまた「悪徳」を擬人化したものとして描かれています。
『女の三世代』
こちらは日本初公開の作品です。
幼女と彼女を抱く、若く美しい女性、その横に醜い老女が対比して描かれ、人間の一生を寓意的に表現した作品です。
クリムトの作品は、日本の“琳派”にも大きな影響を受けてことでも知られています。
平面的で装飾的な背景に金箔を貼ったり、植物をモチーフにした模様を取り入れたりといたるところにその影響が見て取れます。
そうした華美な装飾性は、難しいことは分からなくても純粋に目を楽しませてくれますね。その他にも楽しみな作品が結構来るそうなので僕個人的にも待ち遠しい展覧会です。
クリムト展の展覧会リポートはこちらをご覧ください。→【展覧会リポート】クリムト展 日本とウィーン
こちらはクリムトだけでなく、ウィーン世紀末文化の全体に光を当てた展覧会です。
絵画はもちろん建築、応用美術まで幅広く世紀末の魅力を感じられる展覧会となっています。
150年前に日本とオーストリアの国交が始まると、ウィーンでは芸術産業美術館が日本美術の収集を始め、明治政府はウィーン万博に参加するなど活発な交流が始まりました。
その時通訳や収集に携わったのがかのシーボルトの息子たちでした。
彼らの尽力によって後のジャポニズムの興隆が支えられたことは日本史がお好きな方にも興味深いところですね。
クリムトも日本美術に魅了された一人で、自身で甲冑や着物、浮世絵なども所有していたそうです。
そしてさらに注目なのがそのクリムトに若くして才能を見出され、オーストリア表現主義の旗手と言われた画家エゴン・シーレです。
丁度管理人が芸大を目指して浪人生活を送っていた約30年前、このシーレの大きな展覧会が開かれました。
浪人生の間でちょっとしたシーレ・ブームのようなものが起こり、自画像なんかはみんなよくマネをして描いていましたね(^^;)
管理人も当時なけなしの金をはたいて2万円もする洋書の画集を買ったほどで、それは今でも宝物です。
シーレの“生と死”をテーマに作品から伝わるどこか不穏で孤独を感じる世界観が、同じ世紀末(こちらは20世紀)であり、バブルの崩壊など憂鬱な時代と自分たちの辛く不安な境遇にあった若い浪人生たちの感性に突き刺さるものがあったのかも知れません。
そうしたちょっとセンチメンタルな意味でも個人的にはシーレに会いたいと思います。
こちらは東京と大阪に巡回の予定です。
東京会場:国立新美術館
会期:2019年4月24日(水)~8月5日(月)
大阪会場:国立国際美術館
会期:2019年8月27日(火)~12月8日(日)
こちらも『パラス・アテナ』『エミーリエ・フレーゲの肖像』など、やはりクリムトの作品が注目です。
エミーリエは、多くの女性と関係をもったことでも知られるクリムトが、生涯で唯一真のパートナーとした女性でした。
弟の妻の妹でもあった彼女は、モード界で活躍する聡明で現代的な自立した女性でした。
その他にはエゴン・シーレの『自画像』やシーレがゴッホの《ひまわり》に触発されて描いた『ひまわり』などが楽しみです。
またシーレ同様クリムトにその才能を見出されたオスカー・ココシュカも必見です。
若くして亡くなったシーレに対し長生きをしたココシュカは、絵画だけでなく演劇や音楽などの公演も行い自作の戯曲を上演するなど多彩な才能をもった芸術家でしたが、絵画も独特の表現が魅力です。
いかがでしたか?今回は今年(2019年)に開催される注目の展覧会を3つご紹介しましたが、3つとも日本とオーストリアの交流150周年を記念する展覧会であり、普段はあまり見ることの少ないウィーン世紀末の魅力が詰まった展覧会になりそうですね。
西洋美術の本流と言えばどうしてもイタリアやフランスということになりますが、いわゆる周辺の地オーストリアで輝いた芸術も是非チェックしてみてください。