こんにちは、管理人の河内です。
今回も前回に引き続きデッサンについて語っていきたいと思います。
前回はデッサンするときには目を細めて対象を見ることで、細部がぼやけて見え全体の雰囲気や流れを大掴みしやすくなるということを書きました。
今回はさらにもひとつ重要なことをお伝えしたいと思います。
それは人間の脳の性質に関係することなのですが、といってもあまり難しく考えないで読んでみてください。
目次
『錯覚』という言葉は日常よく使う言葉ですよね。
意味はわたしたちが対象を事実とは違ったように知覚をしてしまうことですね。
知覚と言ったのは視覚以外にも、思い違いや聞き間違いなども含むためで、そのうち視覚に限った現象を『錯視』といいます。
言葉で難しく言うよりは実際に見ていただいた方が分かりやすいと思いますので下の図をご覧ください。
この線どちらが長く見えますか?
有名な実験ですのでご存知の方も多いと思いますが、答えは“どちらも同じ”です。
線の端っこについている羽のような線が内向きか外向きかで私たちには長さが違ってみえる、こうしたことが錯視です。
このような現象は他の要素によって脳が誤った認識をしてしまうことによるものですが、絵を描く場合それを意識しておくことはとても大切です。
上の例では長さの錯視を見ましたが、錯視は色や明度にも起こります。
例えばこれら二つの〇はどちらが白く見えますか?
何となくご存知の方もいらっしゃると思いますが、周りの色が濃い(暗い)方がより明るく見えます。
洋服を選ぶ際、明るい色の服より濃い色を選んだ方が肌が明るく見えるのはこうした錯視によるものです。
続いてこの図を見てみてください。
白と黒の市松模様のタイルの上に緑色の円柱が置かれ、タイル床の一部に円柱の影がかかっています。
そしてこのAとBのタイル、こうしてみるとAが黒いタイル、Bが白いタイルのように見えます。つまり全く違う色(明るさ)の色として見えますが・・・実は同じ色なんです。
僕も初めてこの図を見た時は全く信じられず、これをプリントアウトしてハサミで切って並べてみました。
するとやっぱり同じ色だったんです!
ここではその色が暗い場所にあるか、明るい場所にあるかで脳が勝手に補正をして私たちに知覚させているそうで、脳が騙されているという言い方もできます。
なのでこのような状況にあるモチーフを描こうとしたとき、実は必要以上にその部分を明るい色で塗ったり、逆に暗い色で塗ってしまったりしてしまうのです。
こうしたことを知っておくのも絵を描く上で大切なんですね。
心理学用語で認知バイアスという言葉がありますが、これは人間の脳が持つ「思考の偏り」という意味で、簡単に言うと「思い込み」や「勘違い」のようなものです。
これは脳の働きとして誰もがもつ性質ですが、絵を描くときにはとてもやっかいな性質です。
なぜなら私たちは一度対象に対してある印象をもってしまうと無意識にそのイメージに傾いて感じたり見えたりするのです。
例えば赤い花を描くとして“赤い”という印象をもってしまうと実際以上に赤い色を塗りたくなります。
これは形に対しても言えることで、「あのモデルさん細いな~」と何気なく思ってしまうともう客観性は失われ、細いというイメージが頭の中で出来上がってしまい必要以上にヒョロヒョロに描いてしまうのです。
一度自分に刷り込まれた印象は、ある種の決めつけや思い込みとなって客観的事実から離れていってしまう、そしてそのことに自分では気づかないのです。
これを自分で解くのは至難の業ですが、ご紹介したように目を細めてぼんやり対象を眺めることで、いったん自分の思い込みから離れることが出来るのです。
また『目を細めて見る』という以外にモチーフや作品から“離れて見る”というのもあります。
とくに「明暗の差」というのは近くでクローズアップして見れば見るほど違いを強く認識してしまいますが、離れて見ると全くそんなにでもなかったりします。
意識を一部分に集中しすぎず、対象から距離を取ることは自分の思い込みから離れることでもあるのです。
③大きな見方から小さな見方へ
絵を描く上で全体と細部のバランスをとることはとても重要です。
細部に関しては、モチーフを一生懸命見るということから始まりますが、全体を見るというのはなかなか難しいものです。
管理人の教室の生徒さんも多くの方が「自分はついつい細部に気がいってしまう」とおっしゃる方が多いのですが、それはごく当たり前のことなので、いかに細部から全体に目を向けるかが大切です。
それは部分を切り離して見ず、「全体の中で相対的に部分を見る」というややこしい話なのですが、モノは細部を積み上げて描いていくのではなく全体があってその中に細部がある、ということをしっかり覚えておいていただければと思います。
ここまで書いてきましたように、私たちは集中してものを見ようとするとつい細かい部分に囚われてしまいがちです。それは言い換えれば主観の世界に入っていくということです。
絵は自己表現であり個人の楽しみでもあるので主観的で何が悪い、という言い方もできますが、完成した作品を他人に見せて何が描かれているか分かってもらえないと哀しいですよね。
行きすぎた主観はただの独りよがりに成りかねません。
そのために常にどこかで冷静に自分の作品を見る目=客観性が必要となります。
全体としてどう見えるか、他の人にも自分と同じように見えているか、といった客観的視点を養うことがとても大切なのです。
その客観性を養うために、正確な形をとることや全体のバランスをとることはとても重要です。
つまりデッサンは客観性を養うトレーニングといえますね。
いかがでしたか?
デッサンを分かりやすくご紹介したつもりが結構難しい話まで飛んでしまいました(^^;
ここで最後にポイントを2つに絞ってみます。
①デッサンするときに目を細めるというのは、小さい部分をあえて見えなくしてしまい、対象を全体として大まかに把握しようという意味でした。
②もう一つは私たちが対象を最初に見たときにもった思い込みや勘違いを抑え、客観的にものを見ることにもなるという点でした。
私たちがモチーフを一生懸命見ようとした結果、意識が対象の一部に囚われて主観的な思い込みが強くなってしまい冷静にものが見られなくなってしまう。
さらには脳が錯覚を起こして客観的事実とは知らず知らずに離れていってしまうというジレンマに陥ってしまいます。
それを防ぐためには対象と適切な距離を取らなくてはなりません。
そのために目を細めてぼんやりと見たり、作品からあえて離れて見たりするという方法をご紹介しました。
もちろん対象をしっかり観察しないことには絵は描けませんし、観察することが基本中の基本です。
ですから実際に絵を描くときには、眼を細めてぼんやり見たり、遠くから眺める時間と、近寄ってしっかり見る時間を振り子のように繰り返して主観と客観のバランスを保つように心掛けていただければと思います。
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学生の頃、絵の上手な友人がいまして、彼女の絵を見て恥ずかしくなり、もう絵を描くのは止めようと思いました。
彼女は美大に行って、私は心理学を勉強する事にしたのですが、ここに来て心理学の話になるとは〜。
また絵を描き始めてよかったです。
学校の勉強も無駄にならずに済みます。
もっともっと客観性を意識して、独りよがりになりすぎないようにしたいですね〜。
それでいて自分の描きたいものを描く...。
難しいですね(´ー`)
おおっ!まさか永井さんが心理学を勉強されていたとは!
絵をやっているといろんなことに話が関連されておもしろいでしょ(#^.^#)?